2024年4月8日に日本初の内臓脂肪減少薬「アライ」が発売されることが決定しました。内臓脂肪は、生活習慣病のリスクを高める厄介な存在。これまで運動や食事療法でなかなか減らせなかった人にとって、まさに待望の薬と言えるでしょう。
しかし、「アライ」は本当に効果的なのか?副作用は?どんな人が服用できるのか?気になる疑問はたくさんあります。
そこで今回は、「アライ」の全てを徹底解説します。
アライとは?
アライの概要
アライは、大正製薬が開発・販売する内臓脂肪減少薬です。有効成分はオルリスタットで、脂肪吸収を抑えることで内臓脂肪や腹囲、体重を減らす効果があります。
オルリスタットは、世界100カ国以上で承認されている成分で、安全性と有効性が確立されています。日本では、これまで医療用医薬品としてのみ使用されていましたが、今回初めて一般医薬品として発売されました。
アライの効果
アライは、食事に含まれる脂肪の約25~30%を吸収を抑える効果があります。具体的には、以下の効果が期待できます。
- 内臓脂肪の減少
- 腹囲の減少
- 体重の減少
- コレステロール値の改善
- 血糖値の改善
臨床試験において、アライの服用者は偽薬を服用したグループと比較して、体重が平均で2倍以上減少したと報告されています。具体的には、偽薬を服用したグループが1年後に平均2.3キロ減少したのに対し、アライを服用したグループでは平均4.8キロの減少が見られたとのことです。これにより、アライは肥満改善に効果的であることが示されています。
アライの効果に関しては、服用を開始して半年程度で体重が減少することが期待されています。例えば、半年で約2.1kgの体重減少が見込まれ、1年で約4kgの体重減少が期待できるとされています。
アライの副作用
アライは、比較的安全性が高い薬ですが、以下の副作用が報告されています。
- おならとともに便が漏れる可能性
- 気づかぬうちに肛門から油が漏れる
- 便が油っぽくなる
- 便が近くなる(頻繁に排便の必要がある)
- 便を我慢できない
- お腹が張る
- 下痢
- 腹痛
これらの副作用は、脂肪の吸収を抑えるアライの作用によるもので、特に食事の脂肪分が多い場合に発生しやすいとされています。また、油漏れや脂肪便が増える副作用のほか、ビタミン不足や肌状態の悪化といった影響も指摘されています。
特に2つの副作用、「おならをすると便が漏れる」および「気づかない間に肛門から油が漏れる」は、アライを服用した人の約20%で発生すると報告されています。服用初期や不安な方はおむつをしておくほうが良い可能性があります。
アライを購入できる場所
アライは、薬局・薬店で販売されています。ただし、アライは薬剤師の対面販売が必要な「要指導医薬品」です。購入には医師の処方箋は必要ありませんが、購入には、薬剤師による説明を受け、以下の条件を満たす必要があります
- 18歳以上
- 腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上(日本のメタボリックシンドロームの基準)
- 服用の3か月前から食事や運動などの生活習慣改善に取り組んでいる
アライの価格
- 18カプセル(6日分):2,530円
- 90カプセル(30日分):8,800円
アライ発売に対するSNSの反応
新薬アライの発売は、多くの人々の関心を集めました。SNSでは、様々な反応が寄せられています。
肯定的な反応
- 「内臓脂肪が減る薬が出たなんて、すごい!」
- 「今まで色々なダイエットを試してきたけど、これでようやく成功できるかも?」
- 「副作用が心配だけど、まずは試してみたい」
- 「医師に相談して、自分に合うかどうか確認したい」
否定的な反応
- 「薬で痩せるなんて、体に悪そう」
- 「根本的な生活習慣の改善が大事だと思う」
- 「高価な薬なので、気軽に試せない」
- 「本当に効果があるのか、まだ信じられない」
有効成分オルリスタットについて
オルリスタットの作用機序
脂肪(トリグリセリド)は3つの脂肪酸がグリセロールに結合した状態です。食事から吸収される際、このままでは吸収できないので、リパーゼという酵素が働き、3つの脂肪酸を分離させて吸収されます。
オルリスタットはリパーゼの活動を抑制し、食事からの脂肪が体内に吸収されるのを防ぎます。その結果、未消化の脂肪は体外に排出され、カロリーの摂取量が減少し、体重が減少します。この作用機序により、オルリスタットは肥満治療において体重管理を支援する薬剤として用いられます。
メタ分析:オルリスタットの有効性・安全性検証
この論文は、米国食品医薬品局(FDA)が長期的な体重減少のために承認した5つの薬を比較したものです。これらの薬は、オルリスタット、ロルカセリン、ナロキソンブプロピオン、フェンフルミントピラミド、リラグルチドです。著者らは、すべての5つの薬がプラセボよりも体重減少に効果的であることを発見しました。また、すべての5つの薬がプラセボよりも副作用が多いことも発見しました。
オルリスタットはプラセボと比較して、52週で少なくとも5%の体重減少を達成する確率が44%であることがわかりました。これは、1年で平均2.6kg(95%信頼区間、-3.04〜-2.16kg)の体重減少に相当します。オルリスタットは、少なくとも5%の体重減少を達成するためのランキングが最も低く、研究された中で最も効果が低い薬でした。しかし、オルリスタットは、副作用による中止のリスクも最も低いという結果となりました(22%)。
つまり、オルリスタットは効果が大きくないものの有効であり、副作用が少ないという安全な薬であることが確認されました。
日本人に対するオルリスタットの有効性・安全性
この論文は、オルリスタットが日本人成人の内臓脂肪蓄積に与える影響を調査したものです。200人の参加者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、オルリスタットは内臓脂肪面積、ウエスト周囲径、体重をプラセボと比較して減少させました。具体的には、オルリスタット群では、内臓脂肪面積が平均13.50%減少し、プラセボ群では5.45%減少しました。ウエスト周囲径は、オルリスタット群で2.51%減少し、プラセボ群で1.55%減少しました。体重は、オルリスタット群で2.79%減少し、プラセボ群で1.22%減少しました。つまりこの結果から、日本人に対してもオルリスタットは有効であることが確認できます。
また、副作用については重度のものがなく主に軽度で、薬剤の消化器系への影響に関連していました。つまりこの結果から、日本人に対してもオルリスタットが安全であることが確認できます。
他の肥満治療薬との違い:直接的な脂肪吸収抑制による作用
日本ではアライ以外の多くの肥満治療薬、及びサポート薬が販売されています。アライと他の肥満治療薬の明確な違いは作用機序にあり、どのようにエネルギー吸収を抑えるかが変わってきます。ここではそれぞれの肥満治療薬及びサポート薬の作用機序について紹介します。
カロリミットの作用機序
カロリミットの作用機序には、複数の成分が組み合わさっており、それぞれが糖質や脂質の吸収を抑制することでダイエットをサポートする働きがあります。主な成分としては、ファゴミン、キトサン、茶花サポニンなどがあります。ファゴミンはショ糖の分解を阻害し、キトサンは炭水化物や脂肪の吸収を幅広く阻害する働きがあります。茶花サポニンは脂質の吸収を抑える成分として選ばれています。
カロリミットの臨床試験では、食後血糖値と食後血中中性脂肪値の上昇を抑える効果が確認されています。これは、カロリミットに含まれる茶花エキス、桑の葉エキス、キトサンなどの成分が食事の糖や脂肪の分解・吸収を抑制することによるものです。
副作用に関しては、カロリミット自体はファンケルによる報告で副作用がないとされていますが、消化吸収を抑制する作用により、腸内細菌叢の乱れや便の浸透圧の変化によって便が緩くなる可能性があります。
これらの成分は相乗効果を設計されており、単体での効果は限定的ですが、組み合わせることで食後の血糖値上昇や脂肪吸収を抑える効果が期待できます。ただし、副作用として軽度の消化器系の不快感が起こることがあり、キトサンにはカニアレルギーの注意も必要です。医療専門家の指導のもとでの使用が推奨されます。
ナイシトールの作用機序
ナイシトールは防風通聖散という生薬成分を含む漢方薬で、肥満症に対する適応があります。防風通聖散は、体内の余分な水分や老廃物を排出し、血流を改善することで体重管理をサポートします。ただし、下記論文では防風通聖散は体重減少に関する効果はプラセボと比べて有意な差が見られないとの報告もあり、その効果には個人差があることが示唆されています。
エビデンスによる漢方の再構築:メタボリックシンドロームに対する防風通聖散の有効性の検討
マジンドールの作用機序
マジンドール(一般名:マズインドール、商品名:サノレックス)は中枢神経系に作用して食欲を抑制する効果があります。中枢の特定部位に作用し、食欲調節に関わる視床下部室傍核の興奮と外側野の抑制を促進することで、食欲を減少させることができます。これにより、摂取カロリーを減らすことが可能になり、体重管理に役立てることができます。
医療用医薬品として日本で承認されている薬剤であり、下記論文の日本人を対象とした試験では、14週後に平均ー4.6 kgとなっています。
Clinical and basic aspects of an anorexiant, mazindol, as an antiobesity agent in Japan
サラシアの作用機序
サラシアは、糖質の消化酵素であるアルファグルコシダーゼを阻害することにより、糖質の分解速度を遅らせ、食後の血糖値の急激な上昇を抑える作用があります。これにより、糖尿病の予防や管理に役立つとされています。また、サラシアには腸内環境を改善する可能性も示唆されており、健康維持に対しても効果が期待されます。
難消化性デキストリンの作用機序
難消化性デキストリンは食物繊維の一種で、主に糖の吸収を遅らせることによって血糖値の急激な上昇を抑える作用があります。また、腸内環境の改善にも役立ち、便秘解消や肥満予防にも効果が期待されます。この成分は小腸で消化されにくく、大腸まで届いて腸内細菌の栄養源となり、健康な腸内フローラの維持をサポートします。
肥満人口:増加傾向
世界の肥満人口:10億人を突破
2024年2月29日、世界で肥満と分類される大人や子どもが10億人を突破したという調査結果が医学誌ランセットに発表されました。
今回の研究では世界保健機関(WHO)などの研究者1500人あまりが、1990カ国で約2億2000万人の身長と体重を調査しました。いずれも栄養不良の形態とされる低体重と肥満に着目して分析を行いました。成人の場合、体格指数(BMI)30以上で肥満に分類され、18.5以下は低体重に分類されます。
調査した結果、2022年の推計で肥満に分類された大人は世界で約8億8000万人、子どもは1億5900万人でした。子どもや未成年の肥満は1990年から2022年にかけて世界で4倍に増え、大人の肥満は倍以上に増えています。一方で、低体重の人はほとんどの国で減少し、世界の国の約3分の2で、肥満人口が低体重人口を上回りました。
記者会見した論文の筆頭筆者で英インペリアル・カレッジ・ロンドン教授のマジド・エツァティ氏によると、予想よりも早く10億人に到達したのは、低・中所得国で栄養不良の形態が低体重から肥満へと急激に移り変わったことが一因だとしています。世界肥満連合のかつての推計では、肥満人口は2030年までに10億人に到達すると予想していましたが、エツァティ氏によれば2022年の時点で既に10億人を突破したとのことです。
つまりこの結果から、世界的に肥満人口が急激に増えているということなります。
日本の肥満人口:3000万人超
厚生労働省の2019年国民健康・栄養調査によると、男性の33.0%、女性の22.3%が肥満という結果でした。つまり、約3412万人の日本人が肥満ということとなり、日本の肥満人口は3000万人を超す結果となります。今回アライが承認され薬局で販売されるように、将来肥満治療薬がメジャーになってくる可能性が高いです。
まとめ
日本で初めて発売される内臓脂肪減少薬「アライ」は、大正製薬により開発されたオルリスタットを有効成分として含む医薬品です。この薬は、食事に含まれる脂肪の約25~30%の吸収を抑えることで内臓脂肪、腹囲、体重の減少に寄与し、コレステロール値や血糖値の改善も期待できます。臨床試験では、アライ服用者が偽薬グループと比較して体重が平均で2倍以上減少し、具体的には1年後に平均4.8キロの減少が報告されています。しかし、服用には副作用が伴う可能性があり、主に消化器系に関連するもので、油っぽい便や頻繁な排便、気づかない間の油漏れなどが挙げられます。
アライは、18歳以上で腹囲が基準以上の人を対象に、薬局で薬剤師の対面販売が必要な「要指導医薬品」として取り扱われ、価格は6日分2,530円からとなっています。オルリスタットは、食事からの脂肪吸収を阻害することで作用し、これまでの研究で安全性と有効性が確認されており、日本人を対象にした試験でも内臓脂肪面積や体重の減少が確認されています。アライの登場は、肥満治療に新たな選択肢をもたらし、SNS上でも肯定的から否定的なさまざまな意見が寄せられています。他の肥満治療薬と異なり、アライは脂肪吸収抑制による直接的な作用を持つ点が特徴です。世界的にも肥満人口が増加しており、日本国内でも肥満が社会的な問題となっている中、アライの発売は多くの人にとって重要なニュースであることが示されています。